静寂に噛み千切られ森となる夜

多分下にあるから足だろう鰓も

山間鄙びて宿くるくる滑稽な独楽

綻びにおとといの砂倒れかかる

無碍に突く虚は洋上の薄い水

爆撃機をかすめる茨の電撃光

回転衰え大木に結い直す釜

雪でもあり塩でもある蛙の瞳

継承者不在ゴム臭い輪の巡りに

菊腐る光には光のやり方

シャーレ割る拳の友情賑わう鉄

駄菓子屋の潜水痕が露わに朝

風吹かず前世の己に従う草

どうしてどうしても生きていたいと言ってくださら死んでいる

貴族よ壺は柔らかいぞ眠りの国へ

蝶の魂派手な羽を墓場の砂利とす

雲とこの小さな窓流れゆかず破顔

すべてが一瞬カッとしており多勢なり

乳児うろちょろ時空を汚染して回る

氷原いずれ砕け散る食卓とともに

覚めない夢はない忘れて雨具の中身も

怪我すれば遠くの町から医者が来る

カミソリみたいな手のひらした仏様に籠手

内股に紙吹雪注ぐ剃刀傷

師の反逆の証拠だ触手は茹でておこう

駆除した蟻の魂から味抜けて戦ぐ

表札裏返すと穴等しく住人にも

ぬくもり物理的に外したいプリズム買う

塩五キロ買って耄碌してラジコン

日めくりの0月を皿持ち寄って

私立の靴余る炎に目を伏せて

空中に街などない引き攣るヒルガオ

鮮やかに恨み知らせるヒトの脳

電線が闇へ冥王星の方へ

コップに飛び降りてくれオレンジジュースが恋しい

カーテンに目張りして消防士たち

甘い夢を見る少女塩でザリガニ茹でる

ひとり踊り生きて息する星の光

缶をひどく叩くと息が着くホーム

カウンセラーを火とするならば花ざかり

身を分けて片方はすぐ鶴に食わせる

像ねじる計らいには降水確率

真夏日の鎌に輝く優しい笑み

虫の空洞喘ぐ川の日当たりに忍び

歳月が睫毛を垂らす火山帯

歯の主はくつくつ笑う缶木履

無視できるうちは豪雨に針灯す

鏡の裏低次元かくあるべき蔦

指の形に切る薬品の染みたハンカチ

帆で雲裂く反逆百逆千逆せよ

ライオンからガラスを取り出したい歯軋り

一つ目小僧爪楊枝でゴムスープ啜る

衣を剥げ定型が現れるまで

鉄は高潔一枚立ちふさがる祖父かも

草編めば秘境に出土する魚雷

承知も承知忍耐を水銀で洗う

本棚の裏にひっそり釜の熱

爆笑のかつてを荒涼と用紙

また挨拶その抑揚は鎌である

神主諦め前転する暖かな日差し

息添えて都も知らず米運ぶ

複眼に増す来光溶けよ血などは

折り鶴の角度の和を空虚と見做す

眉剃って古代に赤く似てしまう

森薄まり延べ棒みたいな白馬の王子

横断する谷底をぬるいガムテープ

ボンタンアメのオブラート光る死後栞に

水槽は空張り手する気を失う

噎ぶ貝の中身に夜へ暮れゆく波

告げざる鳥天さす指を解体す

樹脂阻む世に喀血という人格

前後のない野菜を刻む昼行灯

長い年月が好きだから草履を編んでください

刃こぼれに抹消願う晩御飯

羽衣どこまで湖をひとしずくにする

命茹でて枝のみ七色の古木

忍ぶはずは解剖学の夢をみる

許されて不意に多面化する草原

粛々と苔むす私物の象は賊

橋隠す不当なホイッスルが延々

輪を編み出す透明度を賽の目にして

劇に出る薬漬けのとある脈拍

折れたサンダルのところまでガスが来ました

熊手でさらう隠者の裾暗幕でしたか

声失う氷柱この世に介護され

螺旋階段の喉越しここが人柱かも

笑み清く草は偽り紙・社

屈むと針が夕映えするとこしえの村

灰を積む部屋に充満するプリン

長靴を抱いている正門の前

赤子の死に声の大きな天使が来る

漠極まり母のぬくもりに群がる粉

熱覆う体毛不定なる兆候

憧れと知れ仏間に鉄製の型

この目が後ろにあったら宇宙を広げてやる

のれんが首を舐め眼光は落ちてくる

私語封じる非接続者の身綺麗な踊り

ゼロは完成するこの丘をひっくり返せば

襟で口を迷いとは可能な未来であったか

恍惚から突き出た桟橋傘を差す

浴す公共部位立ち話もなんですから

鹿発着する球簒奪し問う可否

こころにぽっかり空き縦縞を許す穴

青田に聳える異分子の脛コンクリート

ピル円いオレンジで非常階段の前に

川の流れに関与するリモコンの自死

花咲く場所明るく上から床を貼る

日光わたしの背を焼き影で指す辞表

三角にループする紙芝居水芝居

「撃て静かな民家を」混血から着信

画鋲ふたつ宇宙に向けて熱移す

千手を求め尽くす馬墓穴に香る

末端まで切符が滑る床の除去

骨を疼く潮騒枯れた道ならば

合わせ鏡の空間で伸び続ける棺

丸に似た星一概に傘を積む

走る前から汗かくミイラ一体の距離

ニヒリズムの書体だこの川千々に乱れ

放水車の下敷きに肢残す蛍

賽投げて見失う家ふたつ所有

梅まだ見ぬ被害者へ生卵の白身

胃の闇に鉄道招く舌鼓

割れたガラスを飾る木・嗤う木びしょびしょの子供

キャベツ洗う歯車状に拡散するまで

ネジの溝を故郷で埋める震源

通路にポツンと肩 人間であれば愚か

目で受ければ痛切に電線の雫

蜂騒ぐ巣箱に泡の巨人地区

序章塞ぐ敵国などミサイルより淡く

臆せよ温床惰性がわたしを買いかぶりに来る

丁寧なレストランから尖る山

細く深く鉄溶かす溝一光年

素手に誓う蟻の行く先々の無を

噛んで黄昏めく姪が含まれている

整列遥か同一空間まで潮騒

意味しかないパイルドライバーで飛び散る宝石

プラスチックの人を撃つ読み取り機の発光

妖精たちは無言だカードを受け取るまで

塩積んで沼塞き止める若葉の自我

霞よ滅べ鳥たちを揚げんがため

泥まさぐる爪を打つほど冷えた星

水失せよとパイプを浜に突き立てる

膨らみのない杖に寄りかかる遺児

流れよ不確かなコンクリその悲しみを

全部ドアでできた氷のモノリス搗く

開花だ花が開く花開く張った痛覚へ

相欺くガラスと現実星型に

蛾の目指さなくなった朝日燃えゆく木箱

不幸にして煉瓦と接すべき答案

灰色のカーペットで断層をゆすぐ

花はチカチカしていた見舞いの少女は消えた

湖面に光る文字を抱いて村一個分

ワインのボトルにベーコン乗せるメビウス

ケーキの意味拡大していく殺人現場

宇宙図とも妊娠とも呼べ意中の歩

管轄の券売機に馬繋ぐ滅び

見えないのは誰空気の山脈の写真

仮に与えた苦痛がせせらぎとぶつかる

森渦巻け没する狼を目とせよ

虫増えて思い残すに足る下界

いかる檀家己の臓器の沢へ下りる

服ちぎって布にするほど宇宙広い

製氷皿に固めて少女だったヘドロを

シャボン玉夜景に縦に盛り上がる

酢で洗う鏡にしか映らぬ化石

フェンスの向こうにブラックホールみたいに梅

叢に煙の色の泥蠢く

稚魚らしからぬ不自由風船は膨らむ

毒を鞄に旅する列車の眠りの駅

胸が張り裂けそうドの音を百年聞いて

心臓に青空灯すホーロー鍋

昆布掴めるだけ掴む深緑の十字架

生け捕りの悲喜をこもごも飛ぶカモメ

落涙は風か朱にまみれよ砂漠

水晶は割れ物毛虫が置いてある

もう見たくもない大理石に茎の歯型

菌むす奥の間に魚を捌きにいく

流星降る寿司桶に目を向けさせるな

槍にもあるふるさとの地図焼く遠く

暴れ馬のときどき笑う夕日円形

傷口の灯籠拭えば山が鳴る

しどろもどろに振る賽母の面に錘

腕ピンと青菜に叱られたい土曜

逆光の池泳がれて地割れ灰噛む

岩と化す自我平穏に多忙に肩

小屋舐めてエコーの遠出を溶かす酸

宇宙映す金属邪悪なる出自

合掌の患い抜く像として不全

慰霊碑のために操られ挽き肉買う

海より低い庭猿は拒食を始めた

旅情高く塀ひた走る鉄巨人

塩漬けの見難い魚に海さかる

毒婦登る神話に実在した金網

分度器のある世界では宇宙が雑

拾った髪を縒るなにもかも呼吸せよ

鬼閃く砂丘の最も白い階

花をちぎるバイオリンの音・海の絵する

悲しみ深く原油と同じ場所に埋めて

融点に達した園児とシーソーする

洞窟の舌が靡く大白痴の髪だ

貝殻のスイッチ舐める時刻表

ぬくもりが後引くロープの巣に魚

グリーンピース奥歯に英霊たち語らう

仔山羊を繋いでいた首輪覗けば飼われる

看板ではない夕焼けだ力は不滅だ

ヘリとサイレンの音混ざり合う雲間に月

影あらば最も封じよ風の宿

不幸が鳴り公民館を呼び覚ます

靴箱に目薬落とす手の輪郭

鳥満ちて胃の中麦の粒を拒む

若き日の脈拍に崩れ去るビル

歩行できないトマトの代わりに土を焼く

六畳の琵琶に血を吸う蟻の群れ

ゼッケン無地ゆえ咳き込む金細工の欠番

喧騒の気体が舌を揺らしに来る

うちわで扇ぐほどの世に適齢の器

バケツに水の中枢を置く昼下がり

油で滑る髪幾束もなく狐

誤操作消す操作に混じる愛犬の毛

階段とは部屋の爪痕を愛する行為

薄墨を半日としいずれ死ぬ筒

絵の具を食う虚ろな目に少年はいた

窓の形式模倣して事務員きらめく

街角濡れて苦しむかもしれない材木

苦しくともドアはドア川をこちらに開く

ねじるところを見られて血縁が始まる

遠方から窓に吸い付く良い知らせ

プラケースの塩溜め金魚が一十百

三次元のモザイクだった積み木ぬるい

お腹の中に空気があるよ死んだあとも

午前が終わるシャツ取り込んでも取り込んでも夜

コピー機突き落として語尾のハート抉る

断面で滑る頭を持つ白馬

忍ぶガラス円盤状に初夏の庭

目を閉じてにんじん枯らす空の書架

髪遺し滅ぶ竹にかぐや姫の生爪

童女ドス黒い茶に袖を濡らし夜叉

高低差のない夜空にカツオ節ふわり

湯けむりから火花ラムネ瓶ピンクの内包

かくも渋々認めるものか羽根の在り処

スポンジケーキから色が失せとおせんぼう

オルゴールが売れた店からフランス語

館の留守にバランスボールと箱の不可侵

牛乳飲む鳥食い鳥見る違和感に

帰港した光が破く山羊の鼓膜

肉食のカタに地球のぬめる星

水その色その夕べこの身は線さながら

仮の記憶トタンの錆として浮かぶ

旅客機の透明度低く濁るカフェ

ずっと白と青が見える録画にわたしがいる

星が冷やす団地黒々と風を巻く

夢に見て安全に立つ場所が庭

合図に揺れる国旗休みの玉子焼く

梅舐めてそこかしこ焼け野原にせよ

グランドキャニオン覆う卑劣なサスペンダー

翌日の家路をたどるぬくい糠

沐浴しに銀世界へ尾を従えて

焦らすと揺れるテープ長いどこまでも行ける

海胆のような原点から拍手が聞こえる

太陽映す瞳は妊婦に鍼灸

回転する板と裸に同じ軸

日も冷えた庫内で砂を身に着ける

参観日へ一緒にあかい口をして

しなる標高に紙丈夫な体で歩く

ホース引きずり横断する道花も線

中庭の直角に図工の空虚

鳥籠を通過する蝶然るに脳

匿名が透けて回路と似る葉書

精神はケーキみたいに揺れる椅子

舌起きず湖の底みたいに思う

兵士の靴履く民族ワープの巻き添えに

木の筒を魚に彫れば月満ちる

末永く焼け跡滑る麦の粒

夜光る米を農夫らは害しに

螺子クルクルパーに合図を十時半

スライムを領海に附し王家断絶

馬の産卵つねりに行く砥石を捨てて

流線は花の煙を宿す狐

金属のオーロラ洗う皿よりも

薬中の首を流れる雲の影

落雷の白身に赤き途上の生

カフェ西向き質素と窒素がずれ始める

星間を幅に持つ帯兆す黄色く

徒へ寄せ余生の火花となる花粉

滲む靴底の斜面は生きて右折禁止

電源プラグを砂に埋めたサボテンと繋ぐ

ヨーグルトの詰まった牛を撃つガンマン

蝋燭包んで明るくなる半紙の虚を突く

みぞおちに定規を隠して来た養父

ヘレンケラーの伝記を裂く消えない番地で

煙断つギターも花時計に勝れば

フラスコにも底と呼ばれる遺恨あり

行進曲逆光の無垢に従わず

マシンとしての死あらがう陽はその場で回る

軽で捲るカーテンと紺のハイヒール

輪の中にいる塩一粒飲んだ日から

大海砕けて風船みたいに鉄の魚

清書求む付近セロハンテープで盛る

底偲びの瞼薄めてする散骨

架空図の焦げる音して粉薬

奥に響く渦が見えるかいお父さん

ボロ切れから踏切鳴る寒かったんだね

カーテン巻き取る産毛の塊みたいな息子

旅行者美しく網を引く土曜の時化

板巻くと遠吠えに似て犬が来た

金属が垂れてくるゴルフだ緑ってきれいね

個人事務所からなる熊煌々と湯がく

光なき磁気の粘りに似た曲線

溜め息吸う蛙を嫁に太る日陰

いつか口を滑る石今は猫の意味

悠長にダイヤのマークのガスを吸う

ノートの繊維えぐる目が近い夏の罫線

山脈の何が耐えたい湯を沸かす

ただの洗いもない透き通るばかりの肘

灰色の路頭に遠く空威張り

人格を覚えて奥へ墨流す

狂わせておけばいい夢に手首浸し

沈めば楽しい水たまりと舗装の境界

続きはまた今度にしておくムジナの群れ

月あらば命を抛て糸引くほど

高層階に液入れて孤独の調べ

苦になれ苦になれ縦に割られて浮く異物

長くて吐いた昼に紐じゃらしをして遊ぼう

意味捨てても黒い木箱に春が来る

念じるほどのクジラでも憂鬱は敵だ

蔓従う小舟にひとつ槍乗せて

板張りの爪すら締め付ける悲しみ

水流に逆らうまま発音を正す

腕の中を花がまさぐる昨日とは逆に

ドットの謗りを離れた緑の森の窒息

衣服散らばる床のヌシは蛇だった玉

南京錠の穴の奥へ生き物滴る

今は肉だが騎兵隊らも歌が好き

嵐の枠を釘で打つもう歩けない

果実真っ青に潰れゆく食洗機の空

小瓶に塩入れて押すレター・レターはどこへ

土の首洗う窒素のドームは正午

胸をよぎれば苦境となる刃のグラインダー

粉末状に再開発する湖畔の町

振袖に砂糖を寄せて盆粘る

乗馬の意味を知らない柳吹かれて真緑

星のメッセージ実験動物へは点字

東の巨人のサンダル拾う水芭蕉

物置動く徘徊へと警邏の耳元へと

先輩への憧れが土星めく人倫

乾くタイの新聞の皺に山河を見る

不得手の恋密室にて今一度夜

心底春草木も塗り固めてしまう

一角獣だった額をさす夕刻

歪な豆腐を嗅ぎ疲れてゴム漬けの日々

施工業者などいない川の穴は生えた

運べ我が手を竹槍まで星雲越えて

寮母転倒稲妻より虎をかばって

鉄などひとたまりもなく曲げテナガザルと樹下

仮初めに河満ちて表皮を渡る

抱いた夢に結ばせ影は怒りの座

押して戻らぬ氷河期死ぬまでドーナツ食う

祭りがなく本を誘拐して食った

膝打ちがてらのマーチが肋骨吹き抜ける

落盤の写真に滅ぶ塔写る

豆を甘く煮てきたわね分かるわ雨だもの

吊られた廊下に風 ニワトリが鳴いている

宿らせて星屑幾重に鉄柱吐く

泣いて夜霧に変わらんとする峠の森

籤で決めた夕日役浮いたまま腐る

見えなくなるまで手を振る憎悪の山小屋から

セーターを脱ぎ音声の石を投げよ

傷だらけの孔雀に瀕する砂時計

姥捨て山にも日だまりは生きて償っている

紙でくるんだクリームを地下鉄で運ぶ

分厚くなる蝶夜会に犇めきたくて

蜂を匙で掬う恨むなら母を恨め

紐踏まれて明るくなる開けられたドア

淫らから取り外されて庭の塁

戸のない草靡かせ吸う息箱へ狭く

窓一に牛六砂は皆殺し

高速道路にベッドと雨の予報がある

なめらかなライオンへ白菜むしる

絵葉書の干潟に種を撒く介護

泥舟から突き出る兎の耳百本

空輸の荷に焦がれた胸を書き殴る

海があるとは乱暴な誤差だ書庫の夢

夜明け前謎の映像膝を割る

鳥以外は曇り空の絵ドア押して見る

屋根裏の重機で毛むくじゃらの笛吹く

香炉に棲む蜘蛛震えて営みの仮定

水掻きに字がびっしりと透けて孵化

窓から閉所へ親の手倉のプラモを壊す

文様は水流れず刺股を引く

鉄ベコベコに火力弾く車窓の天井

ふたつのボタンは離れない服が朽ちるまで

陰干しに患者から出る静電気

今は水車を回すためのパン粉を挽いている

十字架の上下にも友達を置く

季節にも毛皮のシャツと皮膚の間

箱は破れ紙ならば花粉・魚卵吐く

形成中断過密なエレベーター垂らす

光沢失せた雲映すべく芝生磨く

筒状の豹滑らかに椅子潰す

蛙踏むとわたしは孤独だと着信

ほうれん草の味が舌に鱗を纏わす

銃束ねるゴムから魂迷う匂い

口論との距離を奏でる虫の足

青空に牙の違和感膝むしる

影とひとつ穴になり紙吹雪を通す

知らずに若い麦踏む靴親戚は脱いでく

六階から伸びる首に貼り付く切手

陸に漆塗って焼き海に飛び込む

清らかなガス歩行者が欠けてゆく

体毛に逆らうウサギのいる墓穴

草敷いて見事な球を奉納する

肺で動かす数字を絵馬に焼くために

鰻うじゃ万里の月明かりを濡らす

銃も世も真平らで触れると冷たい

泉澱むほど胸を刺す生きた匂い

火元は布清潔な偶数である

金貨スルリと袖の奥へ酸素を欲して

鎖交わる地中に確かな肉の地形

骨の多さで他人と化す親代わりの樹木

血で滑る触手カメラを露わにする

竜巻から眉間まで縦にジルバのレッスン

返事もせず器にエビの殻を盛る

未来を制定する籠下げて連なる軒

サボテンに唇残す油未曾有

青白く我が身はふたつ星消える

看取る妻の鼻は長いようかん一切れ

触れられないカレンダーの明日ちぎれて無いから

果てぬ夢をめぐるコマから突き出た軸

轟き飼うブーツに兵士がいるだろう

湯を殴れば弾け飛ぶこれは親族の血だ

花壇スライドして空き地へ増殖するふるさと

油性の振袖着た黒い目の女の蛇腹

単位のない目盛りどこまでも記憶を消してよ

混濁した熱流れ鳴るほど薄い壜

人体しゃぶる夜という巨大な双子の兄

光線溶ける海岸にグラス書き順戯れ

レンズを通した香辛料に血相の青

惰性ならばピアノ掻き鳴らす優しさ故に

銀河集約奥歯のテープは十文字

驢馬軽率に飛び出せばひきつり笑いを浮かべる男

輪ゴムのルートに鉛筆走らせ濡れたロビー

丘の黄金目指すうち海にそして泥に

原油はレンガに染みてためらう熊に着く

家に道に景色に自我置き換える姉

読み札にかかる雲寝姿二列

マイクで拾う潮騒苦しい四隅に部屋

婚前は木の工作を林に置く

香水この漁村に満ちただ障子が立つのみ

コウモリへの舌鼓で中世揺らす

ライター片手に草履を脱ぎ麦畑へ祖父

深い街の雲は穴の壁嗚咽の底

小さなネジ・歯車は叫ぶ雲雀の弱さを

木が突如街に生え噎せ返る見張り

こじれて布吐き出す祈祷師導かれたと

ぼくを見るなと言ったろう猿のバーコード焼く

絶望絶望しかない排水溝絞めたい

ムール貝玄関猥褻たらしめる

ぼくらは世界の砂利を巡る催涙ガス持ち

老婆の口から人生と鳩愛清らか

小皿のフィルムを剥がす劣情に息を潜め

水飲み場の動かない木馬ヤギの血で膨らむ

静かな街に沈みゆく船のリズム飾る

旅は突然終わる笑顔しかないアルバム

シート薄い胸の内に心臓がある

かぐやと名付けた異物縦長泡にまみれ

星に冷たく拍手する上体ばかりが

眉に航路をひそめてしまう物語

とろけるほどブランコこぐよ命の鈴

粘る土を眠りと取り違えてひだまり

通された地上の冷凍庫は四角い

祖父かさみ遺髪で撫でる壺の外

漂流物皆杭状青黄色以外

死後十日の忍び笑いに薔薇が咲く

毛虫酔う下着の山に芯剥き出し

神社に日めくり持ち余生を捧げる子供

鳩を食うほどなくして割れ始める瓶

扇子が見え静脈が見え糊の跡

東洋から管伸びてくるカタコンベ

夜分にフェルトペン咥えて喪に屈する兄

羊の枷とりどりに焦げ臭く地震

パーマちぎれて焼き饅頭手に神父の皮

物乞いみたいにギザギザしたノコギリが鳴く

片足は好きにしていいよ桶の郷愁

キャストを分断する閃光上映の日に

多岐に青空の下バットを担いだ少年

幻に乞う一抹の絵の衰え

老人を奏でる送電線三本

解のない湖底の金貨裏返る

呼び声大きい母体狂う塩竈の中で

夢に忘れ得ぬ壁感情燻るべき

ビール垂れる幾筋も君臨として

食パン破れる音幽かに氷山跨ぐ

テーブルに暖色の舌外されている

今火の手の迫る陶器の城千円から

踊る肉の母性絶えて山に血湧く節

鬼婆の頬伝う数珠聞けば里と

流氷の上に金具を洗う機器

地中を生きて出たくなくなる第九のテープ

獅子座巡る手のひらに頭上を潰した

考えの南に駅北東に牛

異端の花粉は金属めく人から小人にかけ

酔いはしたが巡る季節に戻さずこの身

喜びは束の間 嘆くように足を振るトラウマ

黎明の露台を指す行為を乗せる

褐色の回廊皮膚となる血の革命

この赤脈々と這い上がる枯れ木の影部屋まで

物置のカスタネットは降ってきた

ナス切る窓に映るビーカーへ下半分

あるかもわからない心臓の位置に青いワッペン

肉は着ぶくれの中へしぐれて電飾豊か

屠りの目地に立つのだろう燭台軋まず

譲るべき夢の脂に多指疼く

舌ばかり美しく鳥萌え且つ燃え

今宵霊感気高く百獣食い散らかす

何か言えば麺を削る壁を囲んで

欠落の意味を辞典に頼り留守

息が帰ってきた寿司屋のバラバラの女房

うどんぶちまけ雲でなければ何になりたい

手の甲から腕蒼白に血を拒む

呼ぶ声の牙城深く降雪する森

歌を知らぬ男たち肉を炙っている

陽光ねばつき踏み抜く足を接着する

噛み痕のある少女は激情を放つ

クルミの中は闇 手に包まれて暮れる

ビル街に卑劣な風船込み上げる

生き続けるべく小人らを翻す

引き出しが開くように通り魔は紫

頭部突き出す巨大な手裏剣じみて棉

蜜袋に浮かされてひとり枯れ木を揺する

図の国に寒流捧ぐ爪の肉

剥いた栗だよ運ぶよ我々は老婆だ

畳匂う空き家にトンカチでしてしまう

余地の一寸先でドアがめり込み始める

(ここから2012年)

脳を与えてしまう強くもないサソリに

水が水を誘う不穏に他者よだつ

男子のきれいな沢に接点はオルゴール

村人の骨にトロフィー当たる過疎

金粉拐う物陰の手の長い女

パンと放電して消えるエイすきま風

不実の庭に誰一人凝固せず歴史

蛇縛る紐ぬくい星も照らされる

泉が湧くまで金貨の重みで掘るしかない

野菜に線を引こうもうノートは真っ暗闇だ

意思を持たぬ人らが灯油を継ぎ足していく

火を旋回する鳥描画され網膜

模型静かに崩れて夕べはよく眠れた

青春のみ死んで我が肉・容態角張る

王女は見た夢を話す気球に着陸され

真っ青なロビーに口惜しくて虚無僧

洞窟崩落物心はつきましたか

血もなく流す涙の音で一室剥く

去りたい刃がギラギラ集めていたフタ落とす

誰にも見せられない冷たく透き通る剥製

肉じりじりと焼くために風をマイクで拾う

軟膏の夜は長いしつこく

陶器の殻押し潰すと真珠のアンテナ伸びる

シャツ白くひまわり焼いて進む舟

ネジの溝を散歩したい乾季の象たちと

肉林の元の形に蝋垂れて

憎い人形置く土地痩せて黙秘とする

引き出しに蟹休ませる腹八分

泡ほどには消えないバームクーヘンの輪

鴉自身いずれ消え去る空に鳴く

茎は屈曲を嗜むそれしかないわたしのため

つがれて波止場は肥える摩擦を惑星に帯び

深海から落ちる藻粥で受け止める

奇妙な列車の水溶液を浴びている

震える手を噛みちぎるわたしも待つ誰かだ

茂る静脈死の秘宝が欝呼ぶともなく

手鏡に筒当て籠る冬の世界

人と光交互に吸うレストラン不滅

杖重なる非道降れど降れど飾らず

浮力足す今後の柱食い潰し

樽への愛着から泡氷結するでもなく

騎兵の母は錆が好き抑揚もなく

白米どけると裏側に出る触手だらけ

ガラスより透けたい来世を根で抉る

割れた鳥の悲鳴が黄身より遅れて来る

白く濃く幅狂う紙隔離する

ほどほどに土器洗われて川汚れる

墨吹いて地図の山指し示す地図

風化する砂漠よ凍れ蝋の針

ペガサス溺れる巨大な己の心臓に

王子せせら笑う一切の肉知る由

閉幕の余韻が肌に繊維質

性格を喪う友脈絡なく嗅ぐ

瓶に火炎が湖がハテ霧の宿

主賓蘇生を見ず原生林との縁こじれて

すべての母の記号は社会科の丸に

密告者の袖に満ちる轢死した机

見つめると砕くは同じ目にあわせる

臨終に油を実は連れてきた

粘土の竜から割り箸飛び出し胸まさぐる

大雪明けてルーレットのあたりふくらむ

シャツ着せてしどろもどろに猿分ける

ただこの世にだるいものとして泥塗り合う

野辺に固く届くぐるぐるに拉致されて

海の間陸の間分かつ石灰振り込む下女

鶏肉に近い夢など喫煙所で

キヒ桐の箱キヒ開く皮膚のヒビ

糸引く涙が屈折して悲しい翼になる

来年の日当りへ散らばる貨幣

わたしがわたしであるいびつさ社に持ち帰り検討

王ら率い毛玉が杖を突いて来る

ビル五階に灰の色を分からせる光

声と杭の通信を拒否落下速度

異星の異物で刺殺され血を吸い込む嵐

眩むほど死んだ蛾を浴び泥蹴る鹿

理科室で爪と虚妄を交互に切る

餓死己の全長で突き破る書画

塩振って遠い群生地に味付け

ライブハウスを受光し尽くすゴムの茨

証拠の紅茶小鳥が殺せるほどぬるい

言い忘れた泡吐き出してドームに帰る

曇天の骨身に産声沁みている

車の窓も花びら大円形掌握

扇宿せば盃黒く雉子枕

舟を出し沼を読み込む光りつつ

霊と雪が似ていなくとも石畳

弟の仮面の目にまだ残る光

折れた釣り竿ばかり大量に髪振り乱す

溺れるほど折り鶴に語の意味辞書バラバラ

木製の球傾げては山のミサ

カール大帝の咳に真夏の枝を貼る

海洋蠢く生息ともあれ養いの週

ボストン裂けたログハウスこころの地図爛れて

毒々しく咲く桜だった春の置き引き

振り子に倣い位の高い枠を嬲る

起きて石器の説明の必要な子等群れ成す

脳とろけて自転車のカゴと歩道を洗う

針葉樹も未知なればパーツ乾く間もない

巨大な薄目を目で見るからガレージ膨らむ

どこから来て濡れたカーソル鳥叫ばす

百階でようやく机に椅子が乗る

帰宅後焼かれた腕に文字 雲のほつれが見え

体温の間合いにくゆらせて大学

流転と書けば甚だしく手紙の次元

撚る手も枯れてアフリカの色は時が流す

相対的に飛ぶ階段の羽根を持つ鳥

卵揺れて銀河を印刷した食器

担がれている喉から鋤飛び出し富むか

求愛者のバッジにきれいな夜景を塗る

人うねらす壁ニタリニタリと蕎麦打つ

月も見えない秋の深さにねりからし

カルタは異物通学せよ緑の瞳して

シーソー一部ロッカーに捨て母船の酸素

その采配乾電池切る風を誘う

似合いの園に喉よ粘れ三千里ほど

箱開けて海洋世界に光さす

メキシコから来る手袋に人嵌めに

ビン埋めるこの空この海つくられたくて

地獄の摘める花回転しているが徐行

シール剥がすとどんどん孤独に番犬輝く

毒霧よわたしは啜り泣くか出かける

いずれ街ゆく悲しみそれは川底に

硬貨を宿す女性に金星見えている

めくれないか海だぞ崖だって生きてるんだ

クリアファイルから泡欠席してでも泣く

薔薇繰り上げたベランダに歯車噛み合う

座高にある惑星匂うほどに錆びよ

旅行と名乗る直線すべて愛の鞭

笑いは見えるのか少女おれの喉に三つ編み

家路にビデオカメラの光それが窓なら

空欄に派手なペンで穴掘るから見ててよ

懐かしい詐欺した紙幣が起こす風

自転車倒れぬよう壁に寄せジャムを塗る

支離滅裂にチューリップ咲く姉もいて

矢もなく弓を引く音もなく鏡は絵のようだ

続く空き部屋乾くとき舌の根の断絶

鳥の描く輪に鋼鉄の光沢注ぐ

肌も皮膚も語彙の遠隔へと映像

日曜の数字が赤くスポンジ焼く

ひとりで走ると明るい部屋定規しかない

社会の先生のコンタクトレンズで濡れている下駄箱

カップラーメンの浮くお湯が窓の外だろうか

俯くと胃の横に蛍が吊ってある

近代チカチカ吐息と雪混じり真夜中のエゴ

垂れても青は良い色だ星は蔑む

新聞のために開けてある窓が招く手の灰

わたしが草原ではハンガーだ濡れた衣服と星

ケーキで冷えた首にマフラー木炭運ぼう

広げてない支部から出ず刀を棚へ

自転車見つめる雨雲を二枚刃のカミソリ

食べて太る温かさよ橋の下には子亀

氷河の空白積み木並べてザリガニ作る

スイッチかわいいから押す部類の右辺を閉じる

樹海の底で何を知れば花みたいに散れるの

振動する敬礼への埋没着くべく

林間にうっすらハワイのロープ焼く

ビンいくらでも割った線路は角界を避け

目がぬらぬらしてる焼き魚を連れて青果店

事故あの人に降り掛かり粉末ココアのおいしさ

軽い返事だ雪だるまよ地名をつけるぞ

山頂へ落ちるとはロマン靴を磨く

餅詰まらせた犬寒空を揺らし揺らし

決せよ碁石のように宙を舞う間に

鉄柱を引きつけて囲む園児の輪舞

日が沈む今日もクレーンが見える満水だ

調印の木陰に蜘蛛の縞歪む

珍客去る大量の毛を穴に纏い