食虫植物下げ跡地へ自宅を見に行く

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魔界の文字崩れやすく星なる和紙貼る

やがて火に棲む神殿一巡目と呼ぶべし

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床に寝て見る吊るされた銀の匙

巡る季節を鉛筆でぐるぐるぐる出でよ

牛の深さを湿度で計る水の外

長靴に飲まれていくかつては金魚に

円書いて覗きこむできるだけ小さく

山の脈を磁気と見布と化し油彩

西から水溶性フィルム昇るサラダの冷え

水田薄まる涙袋で痙攣して

本当の風化を思う崖の花

古びた無に廃墟等塵塗れの呼吸

吹き抜けは未詳の糸杉透き通る

祇園精舎のデータ消して首空けておく

轟かず屋台集まる日の低さ

背ぐるみの騾馬肉馴染む下流の露

空転する悲しい左を持つ生け垣

持ち主は野菊散らして光の盾

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大さじ二杯の泥が白い枕だ寝よう

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タオル乾く不似合いな椰子に身をよじらせ

瓶詰めの黴並ぶ書架に匂う木屑

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混も沌するギザギザ月光無事な手足

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点描の橋崩れ他次元の死都

断面曲がるなかれふとしても回る独楽

聖ならず近世遠十字大系

道路に平屋ばかり暗澹なら弾むのに

定めもつれ羊歯練る底にありつく鍋

裏返したうさぎにびっしりとボーダー

朝靄のセミ工場にダル・セーニョ

公園砕く閃きを手拍子で消して回る

宇宙大きく見えるため在る置き時計

鉄が和むのはなぜもらい火で熱しつつ

吹雪く緑化の迸りに声その蔓を切れ

夜空カッターでさらうと象迎えに来たよ

島美しい命綱引き寄せなお輝く

遠近法ですべてが点に粉薬

その毒はヒトに効かずオオムカシガエル

ぽかんと開く戸口気は確かイカも乾き

ニーチェ発狂後の世に旗持ち寄り風見

空に歯車の青く満ちて芥川自殺

肌一枚譚語る神主の縒られた妻

辛辣に丘をくすぐる無言劇

蝶の痴態と噛み合う軍港二度と目覚めず

零超えてぼくら同じ誰かの分身

地下をゆく感覚の鮭である泥流

中腹裂き噴き出す楓の明かりでオペ

反射面降り積もり湖底都市の除夜

粘る櫛の彷彿と黄泉路まで白く

赤子の芯きれいに抜け煮えたぎる池

満身創痍の犬や人あらん限りの老い

蛾の根幹剥き出して肌理敬うべし

所詮輝度も持たぬ選択範囲の怪異