焼け残り笑い含ませ沈む鞠

夜這いであれ海へこぼれていくコーヒー

彗星が照らす凶器の腰は女性

彼惜しまれ言い逃れするパンなど焼き

服着せても袖が無駄になる赤い装置

男の孕む母性をトレースせんと雨

清らかな穴の毛深い花火撃つ

晩緑に日傘から風悼むほど

分断の罅青く激突する鳥

年号の証に鮮やかな蛙

すくすくと能面のまま大樹抜く

ずっと左折して利き腕で研ぐ回廊

踏切に蟹の霊いすぎてまだら

密室に雫がたまるほどあくる日

出口輝き羽を震わすという結末

奇しくも鯛ならず者の街を束ねる

吊り下げられくべられ大自然は夜行

孔雀裂け死んでも無垢なままがいい

似た者はいずこに宿を取るだろう

五月来ず死の流体に走る虫酸

銀河と囀る枷指ほども面食らう

星流れる空の濃淡を目で追う飢餓

藪よ動け標識は孵らぬ雛ではない

チャコペンで夢と平行な線を引く

平和裡に飛び散る鳩へ群がる鳩

プラネタリウムにリンゴを忘れて目を閉じる

林立するビルは縞だ波打つばかりだ

鎖に風の吹く隙間あり凧あがる

えいやぁっと飛びかかる既に窒息した武士

蓮は薄く光の重みに耐え切れない

いかずち飼う銀河ひやりと蕾の里

路地入り組み光の悪夢を見るだろう

木星の明かりでホッケーする手続き

室内音楽沈殿する白髪は根に似て

海底にネオン掻き混ぜる風見鶏

風船に映る月へ眼を寄せている

宇宙船の中身は解き放てる宇宙

工場から遠いコンベア酢でびしょびしょ

息吸う子供の中ぬめぬめした鍾乳洞

角で立つ鏡は回り虎を抉る

前列に穴置き縦線じみた遺族

食欲より鳥は無限だ四次元世界

象のすべり台は垂れ尽くした抜け殻だよ

脳のあたりに手紙置く未亡人金色

呉服屋の味覚は伏せよ塗り絵して

償いに糸を食う気さくな人柄

ハンドルまだぬるい麺を焼く男の手だ

書は偉大だ爛々と密室を満たす

割り算の余りまだ響くシャワー室

屈折する一連の裸体浜を染める

ベランダの椅子傾く樹脂の銀河だ

バザー倒壊果実裂けてなお乾くが吉

真四角に朽ちたハモニカ雨の予報

遅れた明かりに音階求める煙の窓

絵の星で刺す額縁の惑星感

すぐ凍る癖がある妻に抱かれる

継ぎ目なく大地より来て猛る牛

月状に色失う砂塵のうねり

手話で捨てるという意味も捨て女優であれ

十字架に容器と化したイカ群がる

嵐へ女中叫びつつ静脈をかざす

犬置き場に自転車だった酸素を置く

穴のジグソーパズルに人が落ちやり直し

ニッケル人間澄んだ空気に列を作る

竹切って肉のない暗闇へ倒す

自我のほとりで指を折れば指飛行機だ

小皿に水忘れて地球に蛇取りに

月の余白に金属片撒き散らして鵺

椅子ひとつテキーラで角砂糖齧る

白日に骨寄せ合い呼吸はひとつ

弓だけが氷漬けに牧場の青

温かく木立を直進する手裏剣

爪と毛と肉に隠れて手編みの祖母

文章短く渡る橋の凍てつく鹿ども

砂絵に土石流ぶっかけて光る老いぼれ

すぐ黙る紺の星へホーミングミサイル

憑依して無形の隣になる汚辱

指さした虚空に逆さの火鉢着く

骨が疼く地下深くもただ地下と呼ぶ

夏に生きた涙とまた会う混血児

裏声に鉄球這わす神無月

杖濡らしバーテンダー後ろ手に縛る

地割れに幽霊たち拳を残して融合

甲羅が首を絞める姿勢に月の円

暁の私物化巡る斧の旅

羊の昔は太陽に満ち道くねくね

足攣らせてぬかるみに油撒く神官

深く突き刺す昨晩発火した長屋

留め置く息届く箱夜の工場から水

男らの肉体に埋もれ顎と唇

雨を新幹線で急ぐ寡婦火花よさいなめ

シール剥がす粘着面に録音の二文字

過去までも胃を欲する秋たる銀杏

離居で余儀なく千の自我を待つ蜘蛛の死骸

神殿前に着く三日月の下半身

光りながら童話をくべる叔母の瞳

セブンの意味が抜けきらずガムを噛み横断

手錠のまま重い祝日の黒耀日

ひとりで泳ぐと暗くなる言うほどの光

鞠蹴って略す左の非常口