頬掠める九死の賽は十面体

室温をならす裂かれた長い虎

鉤爪をくぐり近親者は通夜へ

宙づりの女将と宇宙の話をする

泡がビリヤード台に鎮座する当日

力尽きた兵士は実に春だった

グラス置く肘の角度に暮れる山

波風の真っ只中に彫刻刀

泥四角くはにかむ農道鍔の陰

雲薄く怒濤に焦れているキリン

村に車輪付けて林に突っ込み光線

ベランダごと鱗粉握る鳥の変容

図を食う二名の等しさへ謎めく正門

胴が揃うモンタージュから春の煙

笑う日を塗るカレンダーはみ出すほど真っ黒

固い蛇を電気のように通す鉄

体良くかさむ夜が右肩錨を投げよ

仮の明日の日当りへ遺品をずらす

歯茎の中へ無数の淡い鳩を放す

似たばかりに枯れていく花 塔がひょろり