小屋クレヨンに恥じらい示す老朽化

テープ引きずり出す手パナマの路地から握られ

日陰強く束子が布団を抉る病

油絵の内外に痛ましく甲冑

器物よ我ここに降る古銭の在り方

閉じた片目の方から声マンホールに舌

鉄香り野いちご摘むかも橋の設計

犬の汚れた歯の色は移ろう悪意

薪しなり頃合い清らかに腕押す

永眠のガラスを本に挟む駅

猿が牛をまさぐるカーブに灰さす形状

崖かもしれない親はヨーグルトに子は朗らかに

日をまたぐ延ばした壁画の青に蒸れ

文字を入れる袋を孕むがごとく持つ

ガス吸った四角い目で燃えるドアノブ

花散るも骨折るも音ひとつの庭

行く先も知らぬ刀の背に時雨

星空の下は体内数万の液

崖を削りミキサーで砕く抱くために

風船は虚ろと虚ろが引き合い飛ぶ

休耕地に猿の肉撒き豆の春

笑う愚図の背丈に隠し切れぬ木棺

企画さけてヒヤリとする沢へと蟻たち

世界中のひとに糸を改めて雨

冷えたシャドー介在し雨に乳を晒す

霊感消える日に日に星の名を覚えて

食用蛙の皮膚引き剥がす大きな木

門出寒く掘り炬燵から米が湧く

閉じたビニール傘に黒々略された字

星までの空を固めてラッパで吹く

笑う軍人の歯は透明書き殴りたい

夢に見た道という嘘進んでみる

狂牛分断貴族の机の脚も四ツ

婦人の指は十本獄中ひしゃげまた輝き

豚と猿の木に僻地からせせら笑い

ありとあらゆる死別の屋根に梯子渡す

もらい蛾肌に沈み紺色好みの痕

身悶え楽しくなるおまじないにこりともせず

口をつけば真珠の首不意に縛るハム

人形の箱と間違えて墓を汚す

目玉プカプカポタージュ通りと名付けられ

障子戸で小雨と分かつ先天性

「猿が」とのみある手紙に枝らしき異物

箔の舟塵の旅客互いに相槌

アワビ捕りに行く男ら自転車の限り

袖あまり宙返りする首を絞める

老い先短く鋭くこの世の芝を刈る

野菜室に笑いかけたまま凍る肉

舌に残る辛さから双眼鏡抜く

青濁る変遷に土いたぶる牛

檻の事件直線だけ走り書きする

受話器があるやがて孤独と知る歓喜

夜毎回覧する本当に知らない缶

時計の死角にねじる海苔過去の蛾に生まれる

むせび泣く余生にボール転がり来る

祖父の腕を振る隣国で粉となり

訳せば惑う星となりラジオの口真似

肘と膝を寄せる電気で光る部屋

溶けた舌の流れて野菜を蒸す蒸気

彼との距離が均等にこの世は球なのか

廃ビルへまっすぐ振り下ろされ着いた

呑まれかけた少女の脚その巨大を連れゆく

影のめりに類推の札乱れを漉く

息見えて溺れ月夜だまだ落ちる

愚かと正しい茶が沸けば地下の喉無限

数多引く手の忌むべき根はひとりの眠り手

電極から逃げおおせたやな虫の味

意識に実際より滑る川面その世こそ生きろ

持ち主と血走る箱妄りに受胎す

老人から入れ歯を抜く命の代わりに

おのれおのれと消印を嗅ぐ箸の作法

お冷置く濡れ手に梅突き破ってくる

吊り橋切れて風まかせにまた十時が来た

橋の真下に堆く真緑の母体

手段を感染にとる躊躇い蛸の触手に

筆に牛乳漬けて冷蔵庫形の煙

朝昼晩の六音書き付け空き家の怪

仮縫いの千年先の鍾乳洞

山くすみ金魚は岩を見つめていた

一矢の穴に集う呪文箇条書きの円

遺児とモスク境目なく塗り固める雨

花も乱れてこの春陵辱されシーツ

費用の縁輝き鉄の如き老ける如き

微睡みも交差で生じた暗い壁

魔界クワガタしとどに濡れ手紙という舌

曲無限に古い木靴を押し流す

感情数え終わり潮騒が近くなる

金の矢銀の矢降るともなく墓石を壊した

過去のまだ見つからない星の光を浴びたんぽぽ

数多の椅子の脚数珠つなぎに身を引く陣

懐炉・隠れ家ともに薄く食パンで磨く

卵は他人の家にも割れこけしの疼き

蛇飼いのカルテに月の霜が降る

またねと振る手が沸点を超えて咲く

優美に潤んだ目も星同じ空をキリン

軒端此方宇宙を養育する長毛

一日と幾日は一字違いの猶予

口に綿を詰めて隔たる眩しい季節

声枯れてもヒリヒリするほど従う灰

室内の橋を聞くべき亀裂へ渡る