ほうれん草の味が舌に鱗を纏わす

銃束ねるゴムから魂迷う匂い

口論との距離を奏でる虫の足

青空に牙の違和感膝むしる

影とひとつ穴になり紙吹雪を通す

知らずに若い麦踏む靴親戚は脱いでく

六階から伸びる首に貼り付く切手

陸に漆塗って焼き海に飛び込む

清らかなガス歩行者が欠けてゆく

体毛に逆らうウサギのいる墓穴

草敷いて見事な球を奉納する

肺で動かす数字を絵馬に焼くために

鰻うじゃ万里の月明かりを濡らす

銃も世も真平らで触れると冷たい

泉澱むほど胸を刺す生きた匂い

火元は布清潔な偶数である

金貨スルリと袖の奥へ酸素を欲して

鎖交わる地中に確かな肉の地形

骨の多さで他人と化す親代わりの樹木

血で滑る触手カメラを露わにする

竜巻から眉間まで縦にジルバのレッスン

返事もせず器にエビの殻を盛る

未来を制定する籠下げて連なる軒

サボテンに唇残す油未曾有

青白く我が身はふたつ星消える

看取る妻の鼻は長いようかん一切れ

触れられないカレンダーの明日ちぎれて無いから

果てぬ夢をめぐるコマから突き出た軸

轟き飼うブーツに兵士がいるだろう

湯を殴れば弾け飛ぶこれは親族の血だ

花壇スライドして空き地へ増殖するふるさと

油性の振袖着た黒い目の女の蛇腹

単位のない目盛りどこまでも記憶を消してよ

混濁した熱流れ鳴るほど薄い壜

人体しゃぶる夜という巨大な双子の兄

光線溶ける海岸にグラス書き順戯れ

レンズを通した香辛料に血相の青

惰性ならばピアノ掻き鳴らす優しさ故に

銀河集約奥歯のテープは十文字

驢馬軽率に飛び出せばひきつり笑いを浮かべる男

輪ゴムのルートに鉛筆走らせ濡れたロビー

丘の黄金目指すうち海にそして泥に

原油はレンガに染みてためらう熊に着く

家に道に景色に自我置き換える姉

読み札にかかる雲寝姿二列

マイクで拾う潮騒苦しい四隅に部屋

婚前は木の工作を林に置く

香水この漁村に満ちただ障子が立つのみ

コウモリへの舌鼓で中世揺らす

ライター片手に草履を脱ぎ麦畑へ祖父

深い街の雲は穴の壁嗚咽の底

小さなネジ・歯車は叫ぶ雲雀の弱さを

木が突如街に生え噎せ返る見張り

こじれて布吐き出す祈祷師導かれたと

ぼくを見るなと言ったろう猿のバーコード焼く

絶望絶望しかない排水溝絞めたい

ムール貝玄関猥褻たらしめる

ぼくらは世界の砂利を巡る催涙ガス持ち

老婆の口から人生と鳩愛清らか

小皿のフィルムを剥がす劣情に息を潜め

水飲み場の動かない木馬ヤギの血で膨らむ

静かな街に沈みゆく船のリズム飾る

旅は突然終わる笑顔しかないアルバム

シート薄い胸の内に心臓がある

かぐやと名付けた異物縦長泡にまみれ

星に冷たく拍手する上体ばかりが

眉に航路をひそめてしまう物語

とろけるほどブランコこぐよ命の鈴

粘る土を眠りと取り違えてひだまり

通された地上の冷凍庫は四角い

祖父かさみ遺髪で撫でる壺の外

漂流物皆杭状青黄色以外

死後十日の忍び笑いに薔薇が咲く

毛虫酔う下着の山に芯剥き出し

神社に日めくり持ち余生を捧げる子供

鳩を食うほどなくして割れ始める瓶

扇子が見え静脈が見え糊の跡

東洋から管伸びてくるカタコンベ

夜分にフェルトペン咥えて喪に屈する兄

羊の枷とりどりに焦げ臭く地震

パーマちぎれて焼き饅頭手に神父の皮

物乞いみたいにギザギザしたノコギリが鳴く

片足は好きにしていいよ桶の郷愁

キャストを分断する閃光上映の日に

多岐に青空の下バットを担いだ少年

幻に乞う一抹の絵の衰え

老人を奏でる送電線三本

解のない湖底の金貨裏返る

呼び声大きい母体狂う塩竈の中で

夢に忘れ得ぬ壁感情燻るべき

ビール垂れる幾筋も君臨として

食パン破れる音幽かに氷山跨ぐ

テーブルに暖色の舌外されている

今火の手の迫る陶器の城千円から

踊る肉の母性絶えて山に血湧く節

鬼婆の頬伝う数珠聞けば里と

流氷の上に金具を洗う機器

地中を生きて出たくなくなる第九のテープ

獅子座巡る手のひらに頭上を潰した

考えの南に駅北東に牛